マンション管理士|村上智史の「士魂商才」 

無関心な居住者が多いマンション管理組合に潜む様々な「リスク」を解消し、豊かなマンションライフを実現するための「見直し術」をマンション管理士:村上智史(株式会社マンション管理見直し本舗 代表)がご紹介します。

築16年目のマンションが管理適正化診断で最低評価になったワケ

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先日、日管連(日本マンション管理士連合会)からの紹介で「マンション管理適正化診断サービス」を実施したマンションについてご紹介します。

 

yonaoshi-honpo.co.jp

 

東京都心エリアにある築16年目のマンション(約50戸)。

 

管理委託先は、大手独立系管理会社の「G」です。

 

結論から言うと、

診断結果は、最低評価の「B」(100点中24点)でした。

 

築20年未満のマンションでこの低得点は、かなり珍しいです。

 

原因の第1は、「長期修繕計画の不備」です。

 

築3年目、つまり今から13年前に作成した25年間の計画がその後更新されていません。

 

また、診断では、給水管、排水管の更新工事が長期修繕計画において見込んでいることが加点の条件になっているのですが、給水管は更生工事を見込んでいるだけで排水管を含めて更新費用については一切見込んでいませんでした。

 

さらに、修繕積立金の水準が国交省のガイドラインを下回っているため、将来の資金計画にも不安が残る状況でした。

 

第2は、「大規模修繕工事が未実施」であることです。

 

屋上防水やシーリング材の経年劣化を考えると、1回目の大規模修繕は遅くとも築15年目までに済ませていることが望ましいと思います。

 

しかしながら、このマンションは築16年目の時点で予定すら立っていません。

 

第3は、「法定点検時の指摘事項の未対応」です。

 

東京都では、5階以上の共同住宅については、築10年を超えた時点で「外壁全面打診調査」が義務付けられています。(建築基準法にもとづく)

 

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このマンションは、大規模修繕だけでなく、この打診調査すら行っていません。

つまり、法令違反の状態にあります。

 <ちなみに、虚偽の報告をしたり報告を怠った場合には、罰則(100万円以下の罰金)が科せられる場合があります。>

 

診断の際には、管理会社のフロント担当者も同席していましたが、「私は最近担当になったばかりで詳細はよくわからない」とまるで他人事のようでした。

 

当日の問診では組合の規約の内容や会計についてもフロントに質問しましたが、要領を得ない印象で、とてもこのマンションを担当しているとは思えませんでした。

 

たしかに、低評価となった責任が当の管理組合にあるのは間違いありません。

 

ただ、長期修繕計画が更新されていないことや、外壁全面打診が未実施であることについては、プロである管理会社の積極的なサポートがあって然るべきでしょう。

 

以前、別のマンションで管理会社の変更を検討する際に、この「G」社が候補の一つに入っており、そのプレゼン資料に以下のような説明(抜粋)がありました。

========

(1)「懸案簿」

懸案事項を一覧表にして理事会運営・進捗管理をします!

(2)「提案型管理」

修繕計画、資金計画を含めて積極的に的確に提案します!

(3)「チェックシステム」

「担当者任せ」にせずに、処理状況をチェックします!

========

実際のところ、現場でこのPRどおりに業務が実行されているのか、

甚だ疑問に思います。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

 

 

 

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15年前の耐震偽装事件を教訓に、設計偽装マンションをなくせるか?

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ニュースサイト「Net IB News」に、「相次ぐマンションの設計偽装~デベロッパーと行政の「不都合な真実」」と題した記事が掲載されていました。

 

www.data-max.co.jp

本記事の要約は以下の通りです。

■ 2005年に「姉歯耐震偽装事件」が起きたことに伴い、、2007年の建築基準法改正により、建築確認の厳格化を図った。法改正後、構造計算の偽装は激減したが、いまなおゼロではない。1つの例が、東京の豊洲市場における「日建設計」による設計偽装だ。

■ 福岡市のマンションで設計の偽装が判明したので、販売会社、設計事務所2社、建築確認を行った福岡市に対し質問書を送付した。

■ 販売会社は「設計事務所に確認したが、問題ない」、設計事務所2社は「販売会社から回答するので、直接の回答はしない」と口裏を合わせた回答だった。福岡市は「確認申請書は廃棄しているが、適合を確認のうえ確認済証を交付したと思われる」という回答のみで、適合を確認した具体的な根拠などは 一切示されていなかった

■ 当該物件の購入希望者が構造計算書の閲覧を希望し、仲介業者を通じて管理会社に申し入れたが、「構造計算書は存在しない」との回答であり、購入を断念したことがあった。

■ 建築確認申請書は、正本を行政が保管し、副本は管理組合に引き渡されるため、構造計算書を管理していた管理会社が構造計算書を紛失したことになる。

■ 福岡市は、構造計算書を含む確認申請書正本を廃棄しており、管理会社は構造計算書を紛失している状態で、いったいどのように「適正な構造計算を行っている」ことを確認できたのだろうか。

■ 元請の設計事務所に保管されるのは、多くの場合、確認申請時の構造計算書であり、審査の過程において修正が加えられるため、最終的な構造計算書は、確認申請書副本に綴じられたものだ。

■ それに基づいて、適正な構造計算であることを確認した根拠を示すことができなければ、販売会社も福岡市も、背景には明らかにされては困る「不都合な真実」があると考えられる。

■ 筆者が所有している別府市のマンションでも設計の偽装が明らかになったため、建築確認を行った大分県および別府市に対し質問書を送付した。大分県は「建築確認資料の保管期間が過ぎているが、確認済証と検査済証を交付している」と回答し、別府市は「大分県から書類を引き継いでいない」という回答だった。しかしながら、検査済証は構造計算の適正性を証明する書類ではない。

■ 完了検査は、建築確認を受けた図面通りに施工が行われているかをチェックする。つまり、図面と現場の整合性の確認だけであり、設計が適切かどうかを判断するものではない。

■ 設計が適切に行われていることを前提としているため、設計が偽装されていれば、偽装された図面に基づいた施工に対して、検査済証を交付してしまうことになる。したがって、「確認済証が交付されているから、適切な設計」と主張することは間違いだ。主張が正しいと証明するには、完了検査において建築基準関係規定への適合を確認した根拠を示すべきだ。


■ 「姉歯事件」以降、構造設計が適正に行われているかについて、行政主導による検証が実施されることになったが、実際の検証は、(一社)日本建築構造技術者協会(略称:JSCA)に委託された。


■ 検証に際して、管理組合に対し助成金を交付しているが、この公金を投入した検証において設計の偽装は完全に見逃されていた。それは、JSCAの構造技術者たちが技術的に未熟で発見できなかったか、もしくは自らも偽装を行っていたからだと推測される。


■ JSCAが公金を使い、いい加減な検証を行っていたことは、全国のマンション区分所有者に恐怖を与えることになる。マンション販売会社や行政は、区分所有者の生命と資産を守るために適切な対応をとってほしい。


■ もしマンションが倒壊した場合、区分所有者は近隣の住民に対して加害者となってしまう。また、法令規準を満たさないマンションの売却は難しく、運よくできたとしても、法令規準違反を知った買主から訴えられることもあり得る。


■ 区分所有者は、販売会社に対して「マンションを適法な状態に戻せ!それができないなら、建て替えるか買い取るかの対応をせよ!」と要求すべきだ。

 

本記事の冒頭に出てくる15年前に起きた「姉歯事件」とは、1級建築士が構造計算書を偽装したうえ、確認検査機関がそれを長年にわたり見逃したというものでした。

 

その結果、耐震性を欠いた多くのマンションやホテルが現実に造られ、購入者やオーナーが直接の甚大な損害を受けたばかりでなく、住まいの安全、建築物の耐震性に対する社会全体の信頼が損なわれ、大きな社会問題にもなりました。

 

その際、指摘されたのが「構造設計者」に関する問題です。

 

建築主(デベロッパー)から設計を受託するいわゆる元請け設計者は、いわゆる「意匠設計者」であり、全体の設計を統括するものの、構造設計については専門の技術者に再委託しています。

 

デザイン力を求められる意匠設計者に対して、構造設計者は「計算力」が問われる地味な存在で、担い手がかなり少ないと言われています。

(全国約30万人の一級建築士のうち、構造設計者は1万人に満たない・・)

 

また、構造設計は「下請け業務」と見なされるため報酬が低くなりがちです。

 

そのうえ、オーナーの意向で設計コストの削減や納期の短縮などの要求を受けることも少なくありません。

 

冒頭の「姉歯事件」でも、発注者による経費削減命令が、設計偽装に及んだ動機と言われていました。

 

もう一つは「検査チェック機能の有効性」です。

 

確認検査の目的とは、設計および施工の法適合性に関する第三者チェックですが、「姉歯事件」では、官民の確認検査機関において長年にわたって構造計算書の偽装が見過ごされてきたことから、「確認検査制度の形骸化」も指摘されていました。

  

そのため、2007年の改正建築基準法では、

構造計算適合性判定制度」があらたに導入されました。

 

従来は建築主事、または指定確認検査機関による審査だけでしたが、鉄筋コンクリート造なら高さ20m超など一定の水準を超える建築物は、各自治体指定の「適合性判定機関」の専門家による審査(ビアチェック)が行われることになりました。(下図参照)

 

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この構造計算適合性判定制度の実施に伴い、以下のような変更もなされました。

(1)建築確認の審査期間の延長
   <従前>21日以内 → <現在> 35日以内。

  (ただし、複雑な構造計算を行った場合は、最大で70日以内に延長)

(2)設計図書の差替えや訂正がある場合には、「再申請」が必要に

(3)「3階建て以上の共同住宅」は、中間検査を義務付け

 

この適合性判定を実際に行なっている(一社)日本建築センターのホームページを見ると、最終的には、依頼を受けた建築主に対して、「適合判定通知書」もしくは「適合しない旨の通知書」を発行する、と記載されています。

 

www.bcj.or.jp

冒頭の記事で、筆者が「設計偽装の疑いあり」と指摘している3件の実名付きのマンションは、いずれも2007年の法改正以前に竣工しているため、従前の制度にもとづいて建築確認を受けたものと思われます。

 

したがって、確認申請時の構造計算書を入手のうえ、改めて適合性の判定を受けることで設計偽装の有無を確認したいという主張はよく理解できます。

 

また、

・「構造計算書が存在しない」と回答したマンション販売会社や管理会社

・「確認申請時の正本を廃棄した」と回答した自治体

・「確認済証と検査済証を交付しているから問題ない」という自治体

はたしかに無責任(もしくは無知)と言わざるをえないでしょう。

 

それにしても、

過去の事件(下記参照)を見ても、特に「九州地区」でこうした問題が多く指摘されている印象があるのですが、気のせいでしょうか??

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

 

         f:id:youdonknowwhatyoulove:20180907095250g:plain

 

 

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三菱地所コミュニティが開発した「自主管理支援アプリ」はマンション管理組合に受け入れられるか?

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7月7日付けの「東洋経済オンライン」に「三菱地所がマンション「自主管理」を推す理由  管理のデジタル化で業界の課題を克服できるか」という記事が掲載されていました。

  

news.infoseek.co.jp

本記事の要約は、以下の通りです。

■ 大手マンション管理会社の三菱地所コミュニティから新設分割された「イノベリオス株式会社」がマンション管理業務のアプリ開発を発表した。

 

■ 全国には約10万強の管理組合があるが、同社は、2024年度までに全国3000組合での導入を目指す。

 

■ 同社が進めるのは、アプリを活用したマンション管理だ。マンション住民は、同社が開発したアプリ「KURASEL(クラセル)」上で、管理費の徴収や会計業務、マンション清掃や警備業務などの発注・支払い、駐車場利用の登録など日常の管理業務を行うことができるという。

 

■ つまり、アプリを利用すれば管理会社に委託することなく、住民自身が「自主管理」できるというわけだ。しかし、それはマンション管理会社の仕事が奪われることを意味する。自らの存在意義を否定しかねない発言の真意は何か?

 

■ 通常、こうした管理業務は「フロント」と呼ばれる管理会社の社員が行うが、これをアプリで代替する。アプリの利用料金は月額35,000円からだが、管理会社への委託と比べて年間200万円ものコスト削減効果が見込めるという。

 

■ アプリ開発の背景には、管理員や清掃員の深刻な人手不足がある。時給を引き上げなければ人が集まらない状況だが、マンション住民は原価上昇分を管理費(管理委託費)に転嫁することをよしとしないため、管理会社の収支採算は悪化していく傾向にある。

 

■ また、不採算のマンションからは、管理会社が撤退することにもなりかねず、その結果、適正な管理ができずに“管理不全マンション”が増加する懸念がある。

 

■ 業界紙の「マンション管理新聞」によれば、管理会社の7割以上が「採算の取れないマンションについては契約解除を申し入れることがある」と答えたという。

 

■  一方、アプリの導入によって、管理会社自身も恩恵にあずかれるという。第一に、このアプリは理事会運営と会計業務を代替するため、アプリの導入によって対面業務が減れば、フロントの負担軽減につながるという。

 

■ もう一つは、このアプリを導入しても、マンションの修繕工事は引き続き外注せざるを得ないため、管理会社は一定の収益源を確保しながら、不採算部門の切り離しが可能になる。 

 

■ ただ、アプリの導入で管理組合の課題がすべて解決されるわけではない。滞納管理費の督促には、最終的には個別訪問をせざるを得ないからだ。

 

■ また、組合総会の開催はアプリ上ではできず、出欠票や議決権行使書の回収は引き続き人力で行う必要がある。こうした労力を嫌った管理組合役員のなり手不足は、アプリだけでは解決できない。


■ コロナ禍では、管理員や清掃員といった感染リスクの高い職種の採用が一層困難になる。管理最大手の日本ハウズイングは、マンションやビルの管理員・清掃員など約1万人を対象に1人あたり最大3万円の特別手当を支給する。

 

■ 人手確保や定着に向けた人件費の引き上げが待ったなしの状況では、管理会社自体の業務効率化も急がれる。アプリの導入は住民だけでなく管理会社自身をも救うことになるが、普及には住民にどこまでメリットを訴求できるかがカギを握る。

 <KURASEL の画面イメージ>

 

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このニュースに関する他の記事によると、イノベリオスの取締役は「KURASELは総会・理事会と会計部分を担うサービス。この部分を管理会社に委託せず自主管理することで、管理会社がいなくてもマンション管理が円滑にできる」と語っているとのことです。

 

この記事を読んで率直に感じたことは、

このアプリが本当に優秀な製品なら、他ならぬ管理会社のフロント自身が利用した方が管理組合のためにとって有益なのではないか?

ということです。

 

そもそも、輪番制で毎年交代する「素人」で構成される管理組合の役員が、年間税込50万円弱の負担を受け入れてこのアプリを導入し、毎月の管理費の徴収などの出納会計はもちろん、理事会や総会の運営を独力で行うとは到底考えられません。

 

しかも、以下のようなアプリでは代用できない人手のかかる業務も残ります。

・管理費の滞納者への督促

・総会の開催に伴う出欠確認や書面提出の督促

・総会議案書の説明(決算実績、来期の事業計画と予算案など)

・各種修繕工事の発注業務(相見積の取得、発注事務、支払事務)

 

さらに、この「アプリによるフロント代用構想」の根本的な欠陥は、

管理組合運営を円滑に行うのに最低限必要な専門知識や知見は管理組合内で共有されていることを前提にしていることです。

 

いったい分譲マンションの区分所有者のうちどれだけの割合の人が、

・「区分所有法」や「マンション管理適正化法」について理解しているのでしょうか?

・マンションの共用部と専有部の区別ができるのでしょう?

・自分のマンションの管理規約や使用細則を読んで理解しているのでしょう?

・総会の成立要件と決議要件を理解しているのでしょうか?

・組合会計の仕組みや財務諸表の内容を理解できているのでしょう?

・長期修繕計画の内容を理解しているのでしょうか?

 

少なくともこのアプリを販売する第一候補が、管理組合の役員とはとても思えません。

 

また、本記事によれば「管理組合にとってコスト削減が図れる」との触れ込みですが、役員の業務負荷が増えるという大きな「代償」を考えればとても割に合わないうえ、同業他社へのリプレイスも視野に入れれば、管理会社に委託を継続しながらコストを適正化することも可能です。

 

そもそも「人手不足や人件費の高騰で苦しい」のは、マンション管理業界に限ったことではありません。

 

従来から指摘されている通りアナログ色の濃い業界なのですから、人手不足や人件費の高騰をきっかけに日常業務のあり方を抜本的に見直し、効率的に行えるよう工夫できる余地はたくさんあるはずで、ひょっとするとこのアプリがそれに一役買える可能性もあるかもしれません。

 

以上の観点から、業務効率化アプリを導入すべきは、まずはマンション管理会社自身だと思うのです。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

  

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【理事長のギモン】マンション保険で「漏水」は補償されるのに「雨漏り」はダメなの?

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築20年を超えるマンションで発生する保険事故のうち「漏水」が約7割を占めているそうです。


ただ、一口に「漏水」と言っても、その原因や被害が生じた場所や状況はさまざまです。


漏水事故を含むリスクに備えて、

マンション管理組合では、共用部を対象とする損害保険に加入しています。

 

その補償内容は、火災、破裂・爆発などの事故、自然災害(落雷、風災、雹(ひょう)災、雪災)、物体の飛来・落下などによる「突発的な損害」など多岐にわたります。

 

さらに、主要な「補償特約」として、

(1)施設賠償責任補償特約

共用部分が原因で他人の身体や財産を毀損(きそん)した場合の補償

 

(2)個人賠償責任補償特約

専有住戸に起因する事故で他人の身体や財産に損害を与えた場合の補償

の2つも付帯しているのが一般的です。

 

さらに、オプションとして「地震保険」を付けることも可能で、これらを総称して「マンション総合保険」と呼んでいます。

 

今回は実際に起きやすい漏水事故の事例をもとに、

保険の適用ができるのか、どこまで補償されるのかについてご紹介しましょう。

例1)どこから漏水したのか原因が分からない!

漏水事故の場合、事故の発生段階ではその原因や浸水した箇所がよく分からないことが多いのが実際です。

 

その場合、まずは「水濡れ原因調査」を行う必要があります。

 

この調査に要する費用はマンション保険の補償の特約に含まれているのが一般的で、実費相当は補償されるのでぜひ覚えておいてください。

(ただし、「年間100万円以内」など金額の制限があるのが一般的です。)

例2)居住者の不注意で上階の洗濯パンから漏水し、階下の居室が被害を受けた!

本ケースの場合、共用部ではなく、専有住戸間のトラブルのため、加害者・被害者の当事者間で解決すべき問題とも言え、管理組合が関与する問題ではなさそうだと思われがちです。


ただ、このようなケースでは、

上でご紹介した「個人賠償責任補償特約」を利用できます。

 

下階の被害者から賠償請求された場合、上階の加害者が管理組合(理事長)に事故の報告をして保険適用を申請すれば保険金が支払われます。

 

そのため、加害者が個人的に賠償責任保険に加入していなくとも、被害者は管理組合の保険で救済されることになります。

 

なお、この場合、加害者が区分所有者ではなく、区分所有者の「家族」あるいは「賃借人」であっても保険金は支払われます。

 

この特約は「専有住戸の使用等に起因する事故」が成立要件となっており、「加害者が誰か」までは問われないからです。


例3)老朽化した給水管(縦管)からの漏水で住戸内が被害を受けた!

漏水の原因が、共用設備の老朽化が原因と判明した場合には、上でご紹介した「施設賠償責任補償特約」の適用を受け、当該住戸の修繕費用については補償の対象となります。

 

ただし、共用設備自体の修繕費については補償の対象になりません

漏水原因が設備の老朽化であって、自然災害や突発的な事故による破損等ではないからです。

 

例4)外壁や屋上からの漏水で最上階の住戸内で漏水した!

漏水事故について覚えておいてほしい注意点が1つあります。

 

それは、風雨、雪、雹(ひょう)などの吹き込みや漏入による損害は、保険会社の「免責事項」に含まれているため、補償の対象外になるということです。

 

例えば、屋上防水シートの劣化が進んだ結果、最上階の部屋で雨漏りが発生したとしても補償はされません。

 

これに類する事例として、顧問先のマンションで実際にあった事故をご紹介しましょう。

 

このマンションでは、昨年の台風の際にエレベーターが緊急停止しました。

 

原因は、強い風雨によってエレベーター設備内の部品が被水したためであることがわかりました。

 

保守会社が緊急対応し、設備内の水を拭き取ったところ、エレベーターは無事復旧しました。

 

しかしながら、被水した部品は不具合が再発するリスクがあるとの理由で、その後管理会社から部品の交換工事の見積書が提示されました。

 

このマンションのエレベーターは「フルメンテナンス」の保守契約のため、経年劣化に伴う設備の修繕や部品の交換は保守点検費に含まれており、管理組合が修繕費を負担する必要はありません。

 

しかし、本ケースの場合には「天災等による損害」に該当するため、管理会社の免責事項に該当する、ということでした。

 

そこで、天災が原因ならということで、

マンション保険の適用を申請したところ、それも「却下」されてしまいました。

 

本ケースの場合、風災によって建物や設備が破損したわけではないので、単なる「雨水の侵入」が原因と判断されたからです。

 

建物や設備の老朽化だけでなく、「雨漏り」による損害も保険では原則(※)補償されないことは覚えておきましょう。

(※ 損保会社の一部については、共用部の老朽化による雨漏りの場合も「施設賠償責任特約」の適用で被害住戸の修繕費を補償するプランを用意しています。ただし、保険料はかなり高くなります。)

 

<参考記事>

 

suumo.jp

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

  

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マンション保険の見直しでよくある管理会社の「脅し文句」とは?

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先日、あるマンション管理組合の理事さんから以下のような相談を受けました。

 

■ 管理会社の変更を検討中ですが、マンション保険の見直しについても相談があります。

 

■ 一昨年、損保会社Aから別の損保会社Nに変更することで、保険料を現状比130万円(5年分)も削減できる見積りをもらいました。

 

■ しかしながら、それを聞いた管理会社のフロント担当者から「損保会社Nについては当社が代理店として取り扱っていないため、事故発生時に対応の遅れや理事長の事務手続きが増大する可能性がある。」と不安をあおるような発言があり、結局変更には至りませんでした。

 

■ 損保会社Nを代理店として取り扱っている管理会社はほとんどないとすると、管理会社を変更しても保険会社の変更は難しいのでしょうか?

 

マンション管理会社は、管理受託をテコにして大規模修繕工事はもちろんのこと、集合インターホンや防犯カメラなどの共用設備の更新についても流通経路に介在することで元請けの売り上げや紹介手数料を収益として得ています。

 

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そして、マンション保険の代理店業もその一つです。

大手損保については、管理会社が取り扱い代理店になっていることがもっぱらです。


しかしながら、昨今、損保各社の保険料にはかなりの金額差が生じています。


4年前に登場した日新火災の「マンションドクター火災保険」は、築年数だけでなく、
マンションの管理や修繕状況の評価結果に応じて保険料の値引きを行う画期的な商品で、すでに累計7千件超の契約に達しています。

 

しかしながら、多くの管理会社が日新火災を代理店として取り扱っていない、もしくは日新火災への切り替えをあまり勧めません。

 

その主な理由は、以下の3点が考えられます。

 

1)第三者(マンション管理士)が管理適正化診断を実施するので対応が面倒。

2)専門家の介入によって、管理委託費の見直しの提案を受けるリスクが増える。

3)損保会社の変更で保険料が下がると、代理店としての収入も減るので面白くない。

 

要するに、自社の都合や利益しか考えていないのです。

 

また、保険代理店が管理会社以外の他社に変えられそうになった時に、フロントが

「この損保会社だと、なかなか保険金が下りないという評判がある」 とか

「保険金申請に伴う事務代行業務を行わないので、理事の負担が増える」など

と言って翻意させようとする行為は、特に体質の古い管理会社「あるある」です。

 

まず、何ら根拠も示さずに特定の損保会社の誹謗中傷をするのは、言語道断です。

(代理店になったことがなければ、少なくとも実体験ではないはずです。)


次に、保険代理店を外された管理会社が事務代行を行わないことで、組合役員の負担が増えるようなことがあってはなりません。

 

これについては、以前管理会社の所管団体である「マンション管理業協会」にも直接照会しましたが、事務管理業務の一部として保険契約にかかる事務代行業務を行うと記載している以上、こうした対応はNG であることを確認済みです。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

つまり、管理会社がどこであろうと、保険代理店および保険会社のいずれも管理組合が自由に選択できて当然なのです。

都内にある顧問先マンションでは、昨年保険料の安い損保会社に中途で切り替えた際に管理会社が代理店から外れてしまいました。

 

それでも、保険申請できる事故が発生した場合には、普通に保険代理店への連絡などのサポートをしてくれています。

 

悪辣な管理会社の脅し文句に屈しないよう、管理組合も理論武装しておきましょう。

 

  
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老朽マンションの敷地一体売却の要件が緩和されたワケ

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6月16日付けの「NHK News Web」で「耐震性ある老朽化マンション建て替え所有者5分の4合意で可能へ」という記事が掲載されていました。

 

www3.nhk.or.jp

 本記事の概要は以下の通りです。

■ 耐震性を有する場合の老朽化マンションの建て替えを促進するための法改正案が16日の衆議院本会議で可決・成立した。

 

■ その結果、建物と一体で敷地を売却する場合の要件である「所有者全員」の合意が「5分の4以上」に引き下げられることになった。

 

耐震性が不足している老朽マンションについては、すでに建物や敷地の売却が所有者の5分の4の合意で可能となっていたが、耐震性があるマンションの場合は所有者全員の合意が必要で、老朽化が進んでいても合意形成が進まないことが課題となっていた。

 

■ 6月16日に成立した改正法は、今後1年半以内に施行される。

 

 

マンション建替えに関する現行法の状況は、下の図の通りです。

 

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ご承知の通り、マンションの建替えは、管理組合の決議によって区分所有者全体の5分の4以上の賛成がないと成立しません。

 

それだけでも十分ハードルが高いのですが、建替えを実現したくても、容積率の割増しなどの優遇措置がないと区分所有者の資金不足がネックになって合意形成が進まないという問題ものしかかってきます。

 

そのため、老朽マンションの建替えは一向に進んでいません。

 

実際のところ、築40年以上の老朽マンション56万戸のうち、建て替えが実現したのはたった3%(1.8万戸)に過ぎません。(2016年国交省調べ)

 

そのため、現実的に建替えが難しいならば、いっそのこと建物を解体して敷地売却したうえで管理組合を清算するという選択肢もあったほうがよいわけです。

 

しかし、マンション解体後の敷地の処分に際しては、(区分所有建物がないので)区分所有法のもとではなく、民法の定めに従うことになります。

 

そのため、民法の「共有物の処分」に該当し、敷地の共有者(=元区分所有者)全員の賛成が必要になるというわけです。

 

そうなると、ますます区分所有者間の合意形成が困難になるのは明らかで、事実上老朽マンションは建替えも敷地売却のどちらにも進めない「出口なし」の状況に陥ってしまいます

 

そこで、2014年の法改正によって、旧耐震でかつ耐力が不足しているマンションについて、建物解体後の敷地を「5分の4以上の賛成」により売却できる制度が施行されたのです。(下記ブログ参照)

 

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

そして、6年前の法改正に続いて、今回は敷地売却の要件緩和の対象が、耐震性のあるマンションまで拡大されることになったのです。

 

ただし、「外壁がはがれ落ちるなど周辺に危険性があるマンション」という要件を満たす必要があるとのことです。

 

この要件が意味するところとは、

資金不足のために維持修繕が満足にできなかったり、管理組合が適正に運営されていない管理不全のマンションなども対象にするということでしょう

 

新耐震基準を満たす建物は、1981年6月以降に確認申請していることが要件とされています。

 

つまり、新耐震マンションの最高齢は、今年で築39年を迎えることになります。

 

したがって、新耐震基準を満たしていても、資金面や運営面で問題を抱えるマンションも対象に、建替え以外の出口戦略を用意しなければならないのは当然でしょう。

 

今後は、わが国もますます人口減少の傾向が強まり、地価を含む不動産価格が下がることはもはや避けられないと思います。

 

地価が大幅に下がれば、老朽マンション解体後にそのまま同じものを建て替えなくても、たとえば戸建て住宅として再開発することも考えられるようになるでしょう。

 

「老朽マンションの出口戦略」については、建て替えに固執せずに現実的な選択肢を提供するよう適宜見直してもらいたいと思います。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

     
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マンション管理組合は、今後オンライン化・電子化が進むのか?

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6月11日に、大手マンション管理会社の「大京アステージ」らが、デジタルトランスフォーメーションによる“次世代型マンション管理サービス”の開発に着手したというニュースリリースを行いました。

 

prtimes.jp

本リリースの要約は以下の通りです。

■ 大京アステージと穴吹コミュニティは、マンションをとりまく社会課題の「3つの老い」(建物の老朽化、居住者の高齢化、労働力の老い)などに対応する「次世代型マンション管理サービス」の開発に着手した。

■ 業界No.1の管理実績からこれまで得たナレッジに、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)などの最新テクノロジーを融合させた“新たなマンション生活様式”を創造するとともに、労働集約型の管理業務の変革を目指す。

■ 第一弾として、管理組合の総会をウェブ上で視聴できる「WEB総会」サービスを、2020年7月より試験的に提供する。

■ 通信障害などのリスクも想定し、総会決議をWeb上で行う方法ではなく、書面・電磁的方法などによりあらかじめ議決権を行使した上で、自宅などからウェブで総会を視聴できるようにする。

■ 今後は、理事会の実際の場とWEB参加の双方向で対話が可能な「WEB理事会」サービスの開発やその場で議決権行使が可能な「WEB総会」サービスにも対応できるよう検討する。

■ WEB総会サービスの機能を活用して、居住者間の「WEB意見交換会」など管理組合イベントでの活用や、「工事説明会」「防災セミナー」「空き駐車場の抽選会」など各種説明会での活用も予定している。

■ また、2020年秋から順次、デジタル技術で居住者の健康を支援するヘルスケアサービスや、管理組合と管理会社との電子契約システムなどを導入する予定。

■  電子契約システムの導入については、管理委託契約など書面の電子契約システムを導入することで、契約書保管の負担や印紙代を削減できる。

■また、居住者からの日常生活における相談やトラブル発生時の緊急連絡、各種申請手続きなどをアプリで簡単にできる環境を整備する。

■AIを活用し、管理組合の総会資料や議事録を自動作成することで、社員の事務業務効率化を進めていく。

 

 

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マンション管理のコンサルタントとして起業してから、今年で8年目を迎えました。

 

インターネットやパソコン、スマートフォンの普及によって、私たちの仕事や日常生活のあり方もかなり変容しましたが、管理組合の運営についてはまだまだアナログの部分が多いと言わざるを得ません。

 

理事会や総会の開催の際には、大量の資料や議案書を毎度コピーしていますし、総会議事録の送付や委任状等のやり取りも捺印を伴うこともあって常に郵送です。

 

組合経費の精算についても、理事長による電子承認で管理会社が支払いを代行するシステムを活用しているケースもありますが、原則としては、管理会社が銀行に提出する払戻し請求書を理事長に送って、押印したものを郵送で返してもらうのが一般的です。

 

外出自粛を余儀なくされた期間中に、日本独特の「ハンコ文化」がリモートワーク普及の障害になっているとの報道もありましたが、管理組合の運営もまったく同様です。

 

重要情報の漏洩や組合財産の喪失といったリスクを回避するセキュリティ対策には万全を期すことがもちろん前提条件ではあるものの、今回の「コロナ対策」を機に古色蒼然とした管理組合の運営様式が見直される動きは歓迎しますし、大いに期待するところです。

 

ただ、管理会社がこうした電子化システムを通じて管理組合にサービスを提供することに伴って懸念される点もあります。

 

現在でも、管理組合の理事会・総会の開催やその議事運営を管理会社が事実上仕切れる立場になることが実情のため、管理会社にとって都合の悪い議案(管理委託契約の見直し、管理会社のリプレイス)を上程したり、利害関係の当事者となる管理会社をオミットすることに抵抗感を感じたり、消極的になる管理組合が少なくありません。

 

今後こうした電子化システムを管理組合に提供することで、ますます組合運営を牛耳ることが容易になりかねません。

 

つまり、「顧客の囲い込み強化」という経営戦略の面も少なからずあると考えるべきです。

 

その証拠に、本記事には今後予定しているメニューとして、以下のような説明がなされています。

■問い合わせの多い換気扇フィルタの交換方法などを動画で説明する「住宅設備メンテナンスの仮想体験」などのコンテンツを追加していく予定。

 

■設備メンテナンスや交換などのマンション固有の各種情報を定期的に配信する。

 

 

マンションの共用部分はもちろんのこと、専有住戸内のサービスも視野に入れた「流通経路の独占」が狙いである思います。

 

 

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