1月16日付の毎日新聞に、「マンション建て替えに必要な賛成、「4分の3」に緩和へ 法改正要綱案」と題した記事が掲載されました。
本記事の要約は以下の通りです。
■国土交通省の推計では2022年末現在、全国の築40年超のマンション数は約126万戸に上る。20年後には445万戸に増えると見込まれ、マンションと所有者の「二つの老い」への対応が急務となっている。
■ 老朽マンションの再生促進策を議論してきた法制審議会(法相の諮問機関)の部会は16日、区分所有法の改正要綱案を取りまとめた。
■ 2月に予定されている総会を経て法相に答申され、政府は1月26日召集の通常国会に改正案を提出する方針。
■ 震性や火災への安全性不足、周辺に危害や衛生上の害を与える恐れ、バリアフリーへの不適合があるなどの条件に該当する場合は、建替えに必要な所有者の賛成決議の割合を「5分の4」から「4分の3」に緩和する。
■ 現行法は、死亡や相続で連絡がつかず、決議に参加しない所有者を「反対」と扱っているが、所有者不明によって合意形成が進まなくなるとの懸念が指摘されていた。
■ そのため、住人らの請求によって、裁判所の判断で所在不明所有者を決議の分母から除外できる仕組みを創設する。
■ 建物の骨組みを維持しながら全体をリノベーションする工事や建物の取り壊しについても、現行の「全所有者の同意」という要件を緩和し、新たな建て替え要件にそろえるとした。
■ 1995年の阪神大震災をきっかけに制定され、大規模災害で被害を受けた場合に適用される「被災マンション法」も見直す。
■ 現行は、被災した建物の建て替えや取り壊し、敷地の売却には所有者の5分の4の賛成が必要だが、迅速な復興を妨げるとの指摘が挙がっていたため、所在不明所有者を決議の分母から除外する仕組みを採用し、多数決割合も「3分の2」に引き下げる。
■ 被災して建物の価値が2分の1を超えて失われたマンションは、政府が災害を認定してから1年以内に賛成決議をしないと被災マンション法が適用されなかったが、これを3年以内に延ばし、再延長もできるようにする。
<出典> 毎日新聞「老朽・被災マンションの再生に向けた要綱案のポイント」
新聞などの大手マスコミは、今回の区分所有法改正の目玉として、上の記事のように老朽マンションの建て替え要件の緩和措置を中心に取り上げています。
ただ、通常の管理組合の運営に際して注目すべき改正点として、
集会決議の円滑化対策もあるので、以下ご紹介します。
まずは、総会決議の要件となる区分所有者の母数に関する見直しです。
総会に出席せず議決権行使も委任状も提出しない区分所有者は、特別決議(管理規約の変更、共用部分の変更および復旧の決議)や建替え決議においては「反対者」と同様に扱われます。
そのため、議決に参加しない区分所有者が多いほど、議案が承認されにくくなり、その結果、マンションの円滑な管理が阻害されるおそれがあります。
こうした観点から、今回の法改正に伴って、所在等不明者を含めて総会議案に対して一切意思を示さない区分所有者をあらかじめ除外し、「みなし出席区分所有者」(委任状あるいは議決権行使書の提出者を含む)の多数決による決議ができるようにします。
また、多数決割合の緩和措置についても、以下のとおり導入されます。
①共用部分の変更
原則としては、多数決の要件は「4分の3以上」を維持します。
(したがって、上の挿入図は厳密には正しくありません。)
ただし、共用部に瑕疵が生じている場合や、高齢者や障害者の移動や利用に支障がある場合については、多数決要件を「3分の2以上」に引き下げます。
また、各マンションの管理規約において別段の定めをすれば、区分所有者及び議決権の各過半数以上に緩和することが可能になります。
②共用部分の復旧
地震・火災・爆発などにより共用部が損害を受けた場合に、その部分を元の状態に戻すための復旧を実施する場合には、多数決割合の要件を「総会に出席した区分所有者の3分の2以上」に引き下げることになりました。
おまけで、もう一つ押さえておきたいのが、
給・排水管の全面更新など「専有部分の使用等を伴う共用部分の管理」に関する改正です。
共用部分の変更に伴い必要となる専有部分の保存行為、あるいはその性質を変えない範囲においての利用もしくは改良を目的とする場合は、共用部の変更と同様の多数決要件にて総会決議が可能になります。
(ただし、専有部分の利用状況は支払った対価等の事情を考慮のうえ、区分所有者間の利害の衡平を図る必要があります)
<参考記事>