マンション管理士|村上智史の「士魂商才」 

無関心な居住者が多いマンション管理組合に潜む様々な「リスク」を解消し、豊かなマンションライフを実現するための「見直し術」をマンション管理士:村上智史(株式会社マンション管理見直し本舗 代表)がご紹介します。

15年前の耐震偽装事件を教訓に、設計偽装マンションをなくせるか?

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ニュースサイト「Net IB News」に、「相次ぐマンションの設計偽装~デベロッパーと行政の「不都合な真実」」と題した記事が掲載されていました。

 

www.data-max.co.jp

本記事の要約は以下の通りです。

■ 2005年に「姉歯耐震偽装事件」が起きたことに伴い、、2007年の建築基準法改正により、建築確認の厳格化を図った。法改正後、構造計算の偽装は激減したが、いまなおゼロではない。1つの例が、東京の豊洲市場における「日建設計」による設計偽装だ。

■ 福岡市のマンションで設計の偽装が判明したので、販売会社、設計事務所2社、建築確認を行った福岡市に対し質問書を送付した。

■ 販売会社は「設計事務所に確認したが、問題ない」、設計事務所2社は「販売会社から回答するので、直接の回答はしない」と口裏を合わせた回答だった。福岡市は「確認申請書は廃棄しているが、適合を確認のうえ確認済証を交付したと思われる」という回答のみで、適合を確認した具体的な根拠などは 一切示されていなかった

■ 当該物件の購入希望者が構造計算書の閲覧を希望し、仲介業者を通じて管理会社に申し入れたが、「構造計算書は存在しない」との回答であり、購入を断念したことがあった。

■ 建築確認申請書は、正本を行政が保管し、副本は管理組合に引き渡されるため、構造計算書を管理していた管理会社が構造計算書を紛失したことになる。

■ 福岡市は、構造計算書を含む確認申請書正本を廃棄しており、管理会社は構造計算書を紛失している状態で、いったいどのように「適正な構造計算を行っている」ことを確認できたのだろうか。

■ 元請の設計事務所に保管されるのは、多くの場合、確認申請時の構造計算書であり、審査の過程において修正が加えられるため、最終的な構造計算書は、確認申請書副本に綴じられたものだ。

■ それに基づいて、適正な構造計算であることを確認した根拠を示すことができなければ、販売会社も福岡市も、背景には明らかにされては困る「不都合な真実」があると考えられる。

■ 筆者が所有している別府市のマンションでも設計の偽装が明らかになったため、建築確認を行った大分県および別府市に対し質問書を送付した。大分県は「建築確認資料の保管期間が過ぎているが、確認済証と検査済証を交付している」と回答し、別府市は「大分県から書類を引き継いでいない」という回答だった。しかしながら、検査済証は構造計算の適正性を証明する書類ではない。

■ 完了検査は、建築確認を受けた図面通りに施工が行われているかをチェックする。つまり、図面と現場の整合性の確認だけであり、設計が適切かどうかを判断するものではない。

■ 設計が適切に行われていることを前提としているため、設計が偽装されていれば、偽装された図面に基づいた施工に対して、検査済証を交付してしまうことになる。したがって、「確認済証が交付されているから、適切な設計」と主張することは間違いだ。主張が正しいと証明するには、完了検査において建築基準関係規定への適合を確認した根拠を示すべきだ。


■ 「姉歯事件」以降、構造設計が適正に行われているかについて、行政主導による検証が実施されることになったが、実際の検証は、(一社)日本建築構造技術者協会(略称:JSCA)に委託された。


■ 検証に際して、管理組合に対し助成金を交付しているが、この公金を投入した検証において設計の偽装は完全に見逃されていた。それは、JSCAの構造技術者たちが技術的に未熟で発見できなかったか、もしくは自らも偽装を行っていたからだと推測される。


■ JSCAが公金を使い、いい加減な検証を行っていたことは、全国のマンション区分所有者に恐怖を与えることになる。マンション販売会社や行政は、区分所有者の生命と資産を守るために適切な対応をとってほしい。


■ もしマンションが倒壊した場合、区分所有者は近隣の住民に対して加害者となってしまう。また、法令規準を満たさないマンションの売却は難しく、運よくできたとしても、法令規準違反を知った買主から訴えられることもあり得る。


■ 区分所有者は、販売会社に対して「マンションを適法な状態に戻せ!それができないなら、建て替えるか買い取るかの対応をせよ!」と要求すべきだ。

 

本記事の冒頭に出てくる15年前に起きた「姉歯事件」とは、1級建築士が構造計算書を偽装したうえ、確認検査機関がそれを長年にわたり見逃したというものでした。

 

その結果、耐震性を欠いた多くのマンションやホテルが現実に造られ、購入者やオーナーが直接の甚大な損害を受けたばかりでなく、住まいの安全、建築物の耐震性に対する社会全体の信頼が損なわれ、大きな社会問題にもなりました。

 

その際、指摘されたのが「構造設計者」に関する問題です。

 

建築主(デベロッパー)から設計を受託するいわゆる元請け設計者は、いわゆる「意匠設計者」であり、全体の設計を統括するものの、構造設計については専門の技術者に再委託しています。

 

デザイン力を求められる意匠設計者に対して、構造設計者は「計算力」が問われる地味な存在で、担い手がかなり少ないと言われています。

(全国約30万人の一級建築士のうち、構造設計者は1万人に満たない・・)

 

また、構造設計は「下請け業務」と見なされるため報酬が低くなりがちです。

 

そのうえ、オーナーの意向で設計コストの削減や納期の短縮などの要求を受けることも少なくありません。

 

冒頭の「姉歯事件」でも、発注者による経費削減命令が、設計偽装に及んだ動機と言われていました。

 

もう一つは「検査チェック機能の有効性」です。

 

確認検査の目的とは、設計および施工の法適合性に関する第三者チェックですが、「姉歯事件」では、官民の確認検査機関において長年にわたって構造計算書の偽装が見過ごされてきたことから、「確認検査制度の形骸化」も指摘されていました。

  

そのため、2007年の改正建築基準法では、

構造計算適合性判定制度」があらたに導入されました。

 

従来は建築主事、または指定確認検査機関による審査だけでしたが、鉄筋コンクリート造なら高さ20m超など一定の水準を超える建築物は、各自治体指定の「適合性判定機関」の専門家による審査(ビアチェック)が行われることになりました。(下図参照)

 

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この構造計算適合性判定制度の実施に伴い、以下のような変更もなされました。

(1)建築確認の審査期間の延長
   <従前>21日以内 → <現在> 35日以内。

  (ただし、複雑な構造計算を行った場合は、最大で70日以内に延長)

(2)設計図書の差替えや訂正がある場合には、「再申請」が必要に

(3)「3階建て以上の共同住宅」は、中間検査を義務付け

 

この適合性判定を実際に行なっている(一社)日本建築センターのホームページを見ると、最終的には、依頼を受けた建築主に対して、「適合判定通知書」もしくは「適合しない旨の通知書」を発行する、と記載されています。

 

www.bcj.or.jp

冒頭の記事で、筆者が「設計偽装の疑いあり」と指摘している3件の実名付きのマンションは、いずれも2007年の法改正以前に竣工しているため、従前の制度にもとづいて建築確認を受けたものと思われます。

 

したがって、確認申請時の構造計算書を入手のうえ、改めて適合性の判定を受けることで設計偽装の有無を確認したいという主張はよく理解できます。

 

また、

・「構造計算書が存在しない」と回答したマンション販売会社や管理会社

・「確認申請時の正本を廃棄した」と回答した自治体

・「確認済証と検査済証を交付しているから問題ない」という自治体

はたしかに無責任(もしくは無知)と言わざるをえないでしょう。

 

それにしても、

過去の事件(下記参照)を見ても、特に「九州地区」でこうした問題が多く指摘されている印象があるのですが、気のせいでしょうか??

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

 

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