10月9日付けの日本経済新聞で、「マンション修繕積立金の上げ幅抑制 国交省が指針、計画的徴収促す 3割超が資金不足」と題した記事が掲載されていました。
<参考記事>
本記事の要約は以下のとおりです。
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■ 国土交通省はマンションの修繕積立金を巡り、積み立て途中での過度な引き上げにつながらないよう目安を設け、管理組合に計画的な積み立てを促す。
■ 管理組合が長期修繕計画をつくる際に参考にする国交省の指針を改める。マンションの規模ごとに積立額の基準を示すガイドラインなどにも負担金の目安を盛り込む方針。
■ 一般的なマンションは築年数の経過に伴い、大規模修繕工事を実施するが、現在、多くのマンションで修繕のための積立金の増額幅が大きすぎて住民合意ができないトラブルが相次いでいる。
■ 2001年竣工のあるマンションでは、計画当初に比べ、最終段階で積立金が5.3倍になる徴収計画をたてた。13年に管理組合の総会で値上げを決めようとしたところ、一部から強い反対を受けて断念。資金不足で修繕工事は延期された。
■ 国交省によると、計画当初から最終年までの増額幅は平均3.6倍。10倍を超える事例もある。
■ 国交省が2018年度に実施したマンション総合調査では、長期修繕計画に対して積立金が不足するマンションは34.8%にのぼり、前回調査(13年度)に比べて割合が倍増している。
■ また、老朽マンションほど修繕積立金などの滞納割合が高い。1969年以前に竣工したマンションのうち42.9%で滞納があった。計画通り集金できなければ、修繕工事の遅延などが相次ぐ恐れがある。
■ こうした問題を受け、国交省は積立金の引き上げ幅の目安を示す必要があると判断。上げ幅について管理組合の決議が成立した範囲などを調査し、妥当な水準を探る。
■ 政府は22年4月、修繕計画や積立金の状況を自治体が確認する仕組みを設けたが、修繕積立金の上げ幅を適正に抑えているかを認定の審査項目にする案も検討する。
■ 国交省は10月末にも有識者による作業部会を設置し、2024年夏までに対策をまとめる方針だ。
■ 積立金が不足するのは積立金の徴収方法に要因がある。「均等積立方式」と「段階増額積立方式」の2種類のうち、国交省は均等積立を推奨してきた。これに反して10年以降に完成した築浅物件の6割強が増額積立方式を採用している。
■ 分譲時に当面の経費を少なく見せることができるためだが、建物の老朽化が相次げば影響は深刻だ。
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川崎市にある築26年目のマンションでは、昨年修繕積立金を約3倍引き上げました。
従前の徴収額は、専有面積(㎡)あたり月額@98円であったところ、これを@300円に増額したのです。
このマンションの長期修繕計画では、今後30年間で見込まれる修繕費用が@544円でした。
しかしながら、現状の積立金残高(30年間で割り戻した金額:@32円)および毎月の修繕積立金(@98円)を合計しても@130円のため、資金需要全体の3割にも満たない状況でした。
この状況で均等積立方式に移行しようとすると、修繕積立金を現状比で約5倍(+@414円/m²)の増額しなくてはなりません。
ちなみに、本記事でも紹介されている国交省のガイドラインによると、このマンションの場合、@370円が必要という計算結果になりました。(下記参照)
つまり、このマンションの規模や設備状況からすれば、竣工当初から修繕積立金を少なくとも@300円以上で設定する必要があったわけで、当初の設定額が異常に低く抑えられていたことがわかります。
国交省も、こうした現状を知りながら長年「見て見ぬふり」をしてきたわけで、今回の施策検討については、業界人から見れば遅きに失した感があります。
このマンションに限らず、新築当初の修繕積立金が、均等積立方式で必要とされる水準の半分以下がほとんどの状況では、国交省のガイドラインも参考にしつつ、なるべく早期に増額改定を実施することが重要だと思います。
なぜなら、改定時期を遅らせるほど必要な資金を確保するための時間が少なくなるので、現状からの増額幅がどんどん大きくなっていくからです。
また、本記事のとおり、増額幅が大きくなるほど総会で反対されるリスクが上昇するので、結局議案が成立せず、現状の低水準の積立金が維持される悪循環に陥るおそれがあります。
修繕積立金の徴収額を適切に引き上げておかないと、築20年目前後で資金状況が逼迫し、タイムリーな修繕ができなくなり、各所で設備の不具合や漏水事故が多発し、理事会が対応に追われて財政面だけでなく精神面でも疲弊していきます。
その行き着く先は、「管理不全マンション」の予備軍です。
マンションにお住まいの方は、決して他人事ではないことを肝に銘じてください。
<参考記事>