先日国交省が発表した「マンション総合調査結果」(令和5年度)によると、管理費・修繕積立金を3ヶ月以上滞納している住戸のあるマンションは約3割を占めているとのことです。(下記参照)
顧問先のマンション(築29年目)でも、長期滞納者が1名います。
滞納期間もすでに2年近くに及び、未収金は60万円を超えました。
滞納が半年を超えた時点で法的措置をとるべく検討していますが、経済的に困窮していることが原因と思われるものの、滞納者本人と連絡が一向に取れず困っています。
区分所有法(第7条1項)では、債権者である管理組合に「先取特権」(マンションそのものや、マンションに備え付けた動産の売却代金・賃料等から優先的に管理費等を回収できる権利)が認められており、当該住戸を競売にかけて換価された売却代金から滞納管理費等を回収するという方法が認められています。
しかし、当該住戸には住宅ローンの抵当権等の返済がより優先される債務が存在しているため、これら優先債権の方が住戸の売却代金よりも大きい場合は、競売を実施しても意味がないとして競売を取消されてしまうという問題(無剰余取消し)があります。
ただし、「区分所有法第59条にもとづく強制競売」の場合には、仮に無剰余であっても競落人から滞納管理費等を回収することが可能です。
しかしながら、管理費等を滞納している区分所有者にとっては、「区分所有権を奪われる」ことになるため、その適用要件も厳格です。
第59条の強制競売を適用するには、
「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為があったこと、又はそのおそれがあり、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと」、「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること」が要件となっています。
「長期間かつ多額の管理費等の滞納」についても、区分所有者間の不公平感等を生むだけにとどまらず、これを放置すると管理費等の支払いを拒む者が他に現れる可能性も予測され、最終的にマンションの維持管理が困難になるという観点から、共同利益違反行為に当たるとした判例があります。
競売が実現すれば、新たな区分所有者が、前区分所有者の滞納管理費債務を承継するため、管理組合は滞納債権を回収できるというわけです。(区分所有法第8条)
ただ、過去の判例を見る限り、「滞納期間2年と60万円の債権額」の段階では、59条競売が認められる可能性は低く、滞納債権が100万円を超えた時点が目処ではないかと思われます。
というわけで、まだ訴訟に持ち込むことは難しい状況ですが、管理組合として他にやるべき事項もあります。
現行の管理規約を確認したところ、管理組合が法的措置を取ることになった場合、不利に働きかねない条文があったため、以下の改定について総会で提案し、承認されました。
1)管理組合に対する債務項目の追加
国交省の標準管理規約では、管理組合に納付すべき項目として、管理費と修繕積立金、専用使用料(駐車場、専用庭、ルーフバルコニーなど)しか記載されていないのが一般的です。
ただ、マンションによっては、例えばインターネットサービス料、ケーブルテレビの視聴料金、専有部サービス料も管理費等と併せて納付しているケースもあります。
滞納となる場合には、こうした費目も含むことになるため、管理組合の債権となりうる項目はすべて網羅しておきます。
さらに、これらも、管理費等と同様に、当該区分所有者の包括承継人および特定承継人に対して債権行使できるように定めておきます。
2)遅延損害金及び違約金の定めの追加
支払い期日以降の債権に関する「遅延損害金」(年14.6%相当の金利)と「違約金」(弁護士費用や督促・徴収の諸費用)請求できる旨を追加します。
また、管理組合が支払督促、強制執行、競売等申立て、訴訟等の法的措置を機動的に取れるよう、「理事会の決議」を経てそれを追行できる新たに条文を定めました。
(当該条文がない場合は、区分所有法にもとづき「総会決議」が必要と解されます)
管理費の長期滞納はそのマンションでも起こりうるリスクです。
その時になって慌てることがないよう、あらかじめ必要な準備を怠らず周到に対応できるようにしてください。
<参考記事>