マンション管理士|村上智史の「士魂商才」 

無関心な居住者が多いマンション管理組合に潜む様々な「リスク」を解消し、豊かなマンションライフを実現するための「見直し術」をマンション管理士:村上智史(株式会社マンション管理見直し本舗 代表)がご紹介します。

「行列ができる法律相談所」でも取り上げられたマンションの滞納問題

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昨日のTV番組「行列ができる法律相談所」で、マンション管理組合の滞納問題が取り上げられていました。

 

「限界マンション」の問題が取りざたされている昨今、老朽化したマンションでは大規模修繕工事や設備の更新が必要になりますが、これらの資金需要に対して管理組合の修繕積立金残高が不足するケースも少なくありません。

 

管理組合の財政状況を改善させるには、区分所有者が毎月負担する修繕積立金を一時金の徴収や、段階的な増額徴収、借入れなどの方法を選択することを迫られます。

 

一方、老朽化マンションでは、竣工当初からの区分所有者も多く、すでに高齢のために年金生活に入っていて、毎月の徴収額が大幅に増えると日常生活が困窮するケースも出てきます。

 

こうした場合、「区分所有者が修繕積立金を滞納すると、マンションからの立ち退きをしなくてはならないか?」という相談内容でした。

<賃貸マンションの家賃を滞納しているケースと混同されているようで、「立ち退き」というのはそぐわない表現かと思いますが・・。>

 

出演弁護士は、一様に「退去の必要はない」と回答していましたが、

1)訴訟になって、財産を差し押さえられる可能性

2)区分所有法第59条による強制競売請求の可能性

についても言及していました。

 

管理組合の立場で申し上げると、2)は相当長期かつ悪質なケースが対象なうえ、競売請求が認められるにはそれなりの手続きが必要になるため容易ではありません。

 

1)については、まず「先取特権」の実行という方法があります。


管理費や修繕積立金のような特定債権については、他の一般債権より優越して債権の請求ができ、それを「先取特権」といいます。


区分所有法の第7条の規定によれば、区分所有者が負担する管理費等については、不動産および動産の上に先取特権を認めています。


管理費の滞納が生じた場合、管理組合は滞納者のマンションの建物と敷地またはマンション内に設置している家財などの動産について先取特権を根拠に裁判所に申し立てることで債務名義を取得することができ、また判決を必要としないため簡便な手法といえます。

 

ただその一方で、大きな「弱点」もあります。

 

この先取特権の優先順位が、登記された抵当権に劣るという点です。

 

たとえば、住宅ローンなどの抵当権がすでに設定され、かつ、競売落札による予定価格より多額のローン残高がある(オーバーローン)状態にあると、たとえ競売しても管理組合は滞納金を回収できないことになります。


また、先取特権の行使には滞納者が差押えを承諾するなどが条件になるため、現実的には難しいということもあります。

 

ただ、管理組合が滞納問題で留意すべき重要なポイントは、

滞納管理費等の請求権に関する消滅時効のリスクだと思います。

 

管理費等の債権は、

これまでの判例にもとづき「5年の消滅時効」が適用されるとされています。

 

一般の人は、滞納者に毎月督促し続ければその請求はずっと有効だと考えがちですが、そうではなく、催告による時効延長は6ヶ月間しかありません。

 

つまり、単に「支払ってください」という請求行為では、時効を完全に中断する効力はなく、6ヶ月以内に訴訟等の裁判上の手続を取らないと「5年の消滅時効」がスタートするということです。

 

滞納期間が5年を超えてしまった場合、債務者が消滅時効を主張すれば支払いは免除されてしまいます。

 

したがって、特に6ヶ月以上の長期滞納者を抱えている管理組合にとってまずやるべきことは、消滅時効を引き延ばすために法的措置を講じて債務名義を取得することです。

 

滞納額が60万円以下なら、簡易裁判所に「少額訴訟」を申し立てるとよいでしょう。

原則として、1回の期日で審理を終えて判決が言い渡されます。

 

それによって、消滅時効は6ヶ月から10年間へ大幅に延長されます。

 

滞納額が60万円を超えるなど少額訴訟ができない場合は、「仮執行宣言付き支払督促」という制度があります。

 

これは債権者(管理組合)の主張にもとづき、簡易裁判所の書記官が債務者に請求額を支払えと命じる書類を送付する手続きです。


これに対して、債務者(滞納者)から異議が出なければ、「債務者が債務の存在を認めた」ものとして、判決に準じる効果(債務名義)を与えるというものです。

 

これら2つの方法は、いずれも訴訟に比べて手続きも簡易なため自分でできますし、手数料も安いので状況に応じて使い分けるとよいでしょう。


ただし、

時効の進行を延長することができても、上記の通り担保債権の存在や、差押えのために財産調査が必要になる等の事情で、すぐに滞納金を回収できるわけではありません

 

より確実に行うためには、まず滞納者に支払方法などの希望等を聞いて、裁判所から滞納者が支払いやすい方法などを考えた上での判決を得て、なるべく滞納者に自主的に支払いをさせることが有効でしょう。

 

そう考えていくと、

管理費等の債務問題を悪化させないためには「初期滞納のうちに回収する習慣づけ」が大切だということになります。

 

やはり管理組合の健全な運営には、管理会社との連携を通じて管理組合の執行機関である理事会が有効に機能することが条件といえます。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

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