これから紹介するのは、当社が顧問に就任する前に起こったマンション管理組合での実話です。
このマンションでは長らく修繕積立金の徴収額が低い水準にとどまっており、このままでは2回目の大規模修繕工事の際に借入金で資金調達せざるを得ない状況のため、従来の3倍に増額改定する議案を上程しました。
総会前に、増額検討の経緯を含めて理解してもらうために住民説明会も開催されており、出席者からは概ね賛同してもらえる感触が得られていたそうです。
ところが、実際の総会では賛成票が足らなかったために否決されました。
その議案書を読んでいたところ、この議案が「特別決議事項」(総組合員数および総議決権数の各4分の3以上の賛成が必要)として扱われていたことが分かりました。
ただ、管理費や修繕積立金等の徴収額の決定は、普通決議事項(出席組合員の半数以上の賛成で承認)でよいはずです。
不思議に感じたので管理会社に確認したところ、以下のような回答がありました。
(1)管理費や修繕積立金の徴収額は管理規約の巻末に添付されている「別表」に一覧表が記載されている。
(2)修繕積立金の改定は、すなわち規約の一部を構成する別表の変更が必要なため「規約の変更」に該当する。
(3)規約の変更を伴うため、修繕積立金の改定の議案も特別決議の対象となる。
たしかに、このマンションの規約には、以下のような「別表」が最後に付属しています。
・対象物件の表示
・共有持分等
・専用使用部分とその使用料
・管理費、修繕積立金等の住戸別一覧表
<別表のイメージ>
しかしながら、「別表は規約の一部に含まれるから、管理費や修繕積立金の徴収額の変更も特別決議が必要」という見解はどう考えても「屁理屈」だと思います。
このマンションの規約(第54条)には、「総会議決事項」が以下の通り定められており、「管理費等の金額決定」と「規約の変更」はそれぞれ別項目として扱われています。
<(1)・(2)は省略>
(3)管理費等及び専用使用料の額ならびに賦課徴収方法
(4)規約の変更
一方、同規約の第53条第3項には、「特別決議を要する事項」として以下のとおり定められています。
(1)規約の変更
(2)敷地及び共用部分等の変更
・・・ <以下省略>
つまり、管理費等(修繕積立金も含まれる)の徴収額の決定と規約の変更はそれぞれ独立した事項である旨が規定されているうえで、規約の変更のみが特別決議事項と定められているであれば、管理費や修繕積立金等の改定は特別決議事項には該当しないと解するべきです。
さらに、本件についてネットで検索していたら、この主張を裏付ける判例を見つけました。(下記参照)
【管理費等請求控訴事件(平14(レ)90号 神戸地裁判決)の概要】
(1)管理組合が、区分所有者に対して管理規約にもとづき増額改定した管理費の支払いを請求した。
(2)しかしながら、控訴人である区分所有者は「管理費等の額を変更するには規約改正の手続として特別決議が必要であるから、特別決議を経てない本件決議は無効である」旨を主張した。
<主張の根拠>
・本件規約では,管理費,修繕積立金,修繕積立一時基金はそれぞれ本件規約別表のとおりであるとされ、同別表には,「タイプ別管理費用明細書」として各居室の管理費,修繕積立金, 修繕積立一時基金等の額が記載されている。
・すなわち,本件規約は,管理費,修繕積立金,修繕積立一時基金の具体的な額も定めているものであるから,これを変更するには規約改正の手続(特別決議)が必要である。
(3)裁判所は、「総会において管理費及び修繕積立金の額を決定することは規約の変更に当たらず、特別決議を要しないものと解するのが相当」として控訴を棄却。
ただ、このような訴訟が実際に起こっていることを考えると、現状の管理規約の解釈に異論が生じるグレーな部分があることも事実と言わざるを得ません。
そのため、特別決議の対象となる事項を記載している条文において、「規約の変更」の部分に、ただし書きとして「別表の記載事項を除く」、あるいは「別表記載の管理費等の変更・ 改定は除く」と追記するのがよいでしょう。
しかしながら、今度はこの改正自体がまさに特別決議事項になってしまうという「イタチごっこ」になっていまいます・・。
したがって、国交省の標準管理規約を上記のとおり改正してもらうか、コメント部分において別表にある管理費等の金額改定は含まれない旨を明記してもらうのが管理組合にとっては余計な手間がかからないので、とても助かります。
なお、この顧問先の組合については、別の理由で規約の改正を現在検討中のため、その際に上記の追記の措置を併せて行なっておくことを提案するつもりです。
<参考記事>