6月2日付けの「ダイヤモンドオンライン」に、「タワマンの豪華施設を活用する新ビジネスが熱い!共有部が「最高のショールーム」に」と題した記事が掲載されています。
本記事の要約は以下の通りです。
■ タワマンの豪華な共用施設を有効活用する新サービスが、東京湾岸や神奈川・武蔵小杉のタワマンに広がりつつある。
■いま、 タワマン住民に急速に広がっているのが、4月に事業を開始したベンチャーが提供する、タワマンの「共用施設活用サービス」だ。
■ 展望ラウンジやバー、キッチン付きのパーティースペース、住民専用のスポーツジムなど、タワマンの代名詞ともいえる豪華な共用施設は、入居直後こそ喜んで使われていたものの、年月がたつにつれて飽きられて使わなくなっていくのが実情だ。
■ 一方、管理組合にとって、共用施設の稼働率が落ちることはやっかいな問題だ。特に利用料を徴収するタイプの施設は、その収入が施設の維持管理費用に充てられていることも多いからだ。
■だが、 共用施設活用の活性化策は、もっぱら管理組合の裁量に委ねられていることがほとんどだ。言い換えれば、組合理事のやる気と時間と体力の有無で活性化できるかどうかは左右される。しかし、組合理事がボランティアで共用施設の運営をサポートし続けるのは現実的に難しい。
■ 記事冒頭のベンチャー企業が提供するのは、このような管理組合の悩みを解決するだけではない。組合の出費なしにですむばかりか、逆に新たな収入源が得られるケースすらあるという。
■ 管理組合の負担が発生しないのは、たとえば住民参加型のイベントにであれば、実際にそこで参加する人が参加料を支払い、外部主催のイベントの場合には主催側の企業がコミッションフィーを支払うからだ。さらに、共用施設でテレビの撮影やロケなどを行い、その利用料を管理組合の収入とすることもできるという。
■ また企業側にとっても、タワマンの居住者には高額所得者が多く、消費者属性としても非常に期待が持てる集団であるため、直接自社のサービスや商品をアピールできるチャンスがあるという点でメリットも大きい。
タワマンについては、「ホテルライクな生活」を提供するというコンセプトのもと、管理員だけでなくコンシェルジュも派遣されるなど管理仕様が非常に手厚いうえ、その共用施設もかなり豪華になる傾向があります。
本記事にも紹介されている通り、新築当初は物珍しいので各種の共用施設の稼働率も高いですが、「ホテルライクな生活」は日常的には必要とされていない現実があるため、徐々にその稼働率も低下し、酷い場合には「遊休化」することになります。
問題なのは、これらの稼働率が低下しても、一定の人件費や保守点検などの管理コストは事実上の「固定費」として今後ものしかかってくるという現実です。
そこで、「遊休化した共用施設の有効活用のサポート」という新たなサービスによって、組合の経済的負担や理事の業務負荷を軽減するというソリューションを提供しようというベンチャーが現れたというわけです。
当社では、管理組合の管理コスト適正化のためのサポートを主業としていますが、タワマンについては、一般のマンションと違ってコストの削減余地は小さいと考えます。
それには以下の通り、大きく3つの理由があります。
(1)労務コストの比重が高い
タワマンの場合、複数名の管理員が交代しながら24時間・365日張り付く以外に、入居者へのサービスを行う「コンシェルジュ」や、夜勤も行う「警備員」も配備することも珍しくなく、一般の分譲マンションに比べてかなり手厚い仕様が組まれているのが実情です。
また、夜勤も含む場合には時給単価も割り増しになるほか、昨今の人手不足に伴う他業種との人材の奪い合いもコストアップにつながっており、今の仕様を落とすような見直しをしない限りコストダウンは困難な状況です。
(2)ハイエンドな共用設備の存在
20階以上の高層マンションなどに設置される高速のエレベーターは制御システムが複雑なため、そのメーカーの技術者でないと保守対応ができません。そのため、非メーカー系の専門業者との競争原理が機能せず、保守料金に下方硬直性が見られます。
機械式駐車場もこれと同様で、上下や横方向にパレットが作動する汎用的な設備であればメーカー以外の保守専業業者でも対応可能ですが、タワマンに付設されることの多いタワー型の循環式設備の場合は、制御システムが高度かつ複雑なため取り扱いが困難なため、他に委託先の選択肢がなく、保守委託費を削減することが難しいのです。
それ以外にも来客用の宿泊施設やフィットネス施設、あるいは池や噴水の出る施設の類が付設されている場合には、その保守やメンテナンス、そして修繕に支出がさらに嵩む要因になります。
(3)大規模ゆえに限られる管理委託先の選択肢
大規模タワーマンションとなると、数百戸クラスの規模になるのが一般的です。そうなると管理組合に対するサポートにおいても管理会社に一定以上の運営スキルが求められることになります。
タワマンを多数供給しているデベロッパーの子会社であれば、すでに受託実績もあり、熟練したスタッフもそれなりにいるでしょうが、独立系管理会社はその機会に恵まれないのが普通です。
そのうえ大規模物件を受け持つのにスタッフの数も多めに確保する必要があるため、中堅以下の管理会社には少々荷が重いと思われます。
そうなると、現在の管理会社以外に引き受け可能な候補先はおのずと限られることになり、競争原理が働きにくくなるのです。
さらに、高層のタワマンの場合、大規模修繕工事の際に通常の足場を設置できないことから、一般のマンションと比べて工期が長くなり、工事単価もおのずと割高になります。
一方、徴収する修繕積立金の水準は、販売価格を高い水準で維持したいデベロッパーの都合から、一般のマンションと同様に必要な金額の半分以下でスタートしています。
<参考記事>
つまり、タワマンの場合、管理費会計・修繕積立金会計の両方において、潜在的な財政リスクを抱えていますが、これを解決するための管理コストや修繕コストの適正化などの選択肢も一般のマンションに比べて自ずと限られるという性質を抱えていると言えます。
そのため、本記事で紹介されているような副収入を期待できるような「対策」が採用される事例が今後増えていく可能性も少なくないだろうと思います。
<参考記事>