4月29日付の「ダイヤモンド・オンライン」で、「管理委託契約を「人質」に取るマンション管理会社の値上げ要求と戦う方法は?」と題した記事が掲載されていました。
本記事の要約は以下の通りです。
■ 最低賃金引き上げの流れを受け、管理会社が管理委託費の値上げを要求するケースが増えている。
■ 近年の東京都における最低賃金について推移を見てみると、2015年:907円から 2020年:1013円に上昇している。
■ 2019年の記事の時点では、デベロッパー系の管理会社が管理委託費の値上げを要求するケースが多く見られた。しかし、最近では独立系の管理会社も値上げを申し入れるケースが増えているうえ、以前にも増して強気の値上げ要求が目につき、契約解除を通告してくる管理会社も少なくない。
■ 管理会社が契約解除を求めてくるケースでは、大きく次の二つのパターンがある。
一つ目は、管理会社が「どうしても契約を解除させてほしい」という場合で、その管理組合が管理会社から見て“大きなお荷物”になっているケースが多い。
■ その背景には、管理組合からの過剰な要求、「モンスタークレーマー」がいるなどから管理会社の手に余る状況になっていることがある。
■ 二つ目は、今のままでは採算上かなり厳しいため、ぜひ委託費の値上げをお願いしたい、というケースだ。
■ マンション管理業務は労働集約型のため人件費率が非常に高いうえ、管理員や清掃員の賃金は最低賃金、あるいはそれに少しばかりのプラスアルファ程度の設定となっている場合が多いことから、最低賃金の引き上げは利益率低下の大きな要因になっている。
■ その結果、委託費を値上げがないと立ち行かないと判断した場合は、契約解除も視野に入れつつ強気の姿勢で臨んでくる。
■ 一方、「管理会社から値上げの相談などは一言もない」というところは、管理会社にとってもうけの多いマンションである可能性が高く、管理会社の“食い物”にされているマンションと言えるだろう。
■管理委託費の値上げ要求は、管理会社にとっても「賭け」の要素が含まれる行為だ。値上げを要求すれば、管理組合側が必ず相見積もりを取る行動に出ることは分かりきっている。
■ただ、管理会社が「お荷物のマンション」とみなしている場合は、管理組合から他社の安い見積書を突きつけられても、「どうぞリプレイスしてください」と言うだけのこと。
■ 純粋に採算の改善を目的とする場合は、より安い管理会社を見つけてきた管理組合から返り討ちに遭う危険性がある。
■ 一方で、管理会社が値上げの根拠を明確に示しつつ、管理品質の向上やマンションの価値を上げる提案を行い、管理組合側を納得させられれば、値上げに応じてもらうことができる。
■ 管理組合も、値上げ要求をただ突っぱねるのではなく、提案内容によってはマンションのバリューアップにつながることかどうかをしっかり見極め、適切に対応すべきだろう。
■ 管理会社は管理委託費だけで利益を得ているわけではない。大規模修繕工事をはじめとするマンションの修繕工事も、管理会社の大きな収入源となっている。
■ 独立系管理会社の「日本ハウズイング」を例に見ると、売上全体の44.1%は管理業務によるものだが、修繕工事もほぼ同じ割合(42.3%)を占めている。
■ こうしたビジネスモデルの場合、管理委託費ではさほど利益が上がらなくても、大規模修繕工事や小修繕工事が受注できるかどうかが大きなポイントになってくる。
■ 管理会社は営利企業であるため、もうけがなければ当然離れていってしまう。そのため、管理組合も「管理会社にもある程度もうけさせる」という考えを持っていることが大切である。
■ あくまでも管理委託費は適正な金額で契約しつつ、たとえば大規模修繕工事は他社との相見積もりにするが、小修繕工事は管理会社に発注するなど、バランス感覚を持った付き合い方をしていくべきだ。
■ マンション管理業界では、近年フロント担当者不足に加え、管理員の採用にも苦労するようになり、現在では完全な「売り手市場」といえる。そのため、多くの管理会社が「量より質」を目指し、利益重視の方針を取るようになっている。
■ 管理組合も、これからは自分たちが負担すべきところはしっかりと対応しつつ、管理会社の言いなりになることのないように、主体性をもって正しく対処することが求められる。
■ とは言え、1年や2年の任期で理事会を運営する現状のシステムでは、管理組合や理事会を良い組織に育てることは至難の業だ。素人集団の理事会が、百戦錬磨の管理会社に対抗するのは非常に難しい。
■ 本来、管理組合は「将来目指すべきマンション」のビジョンを持って、継続的に運用できる仕組みを作るべきである。その仕組み作りや支援を外部に求め、専門家を活用することも選択肢の一つとして考えるといい。
要約してもかなり長文になりましたが、さらに圧縮して「エッセンス」を抽出すると、以下のようにまとめられます。
1)マンション管理業界は労働集約性が非常に高いが、特に管理員や清掃員などの人件費は「最低賃金」をベースに決まるため、近年の最低賃金の上昇傾向に伴い、従来に比べて管理会社の利益率が低下している。
2)そのため、管理会社が「量より質」に経営方針を転換し、利益重視の観点から管理組合に対して委託費の値上げを要求するケースが増加している。また、採算に合わないマンションに対しては契約解除も辞さない強気姿勢を見せるようになった。
3)今後は、管理組合もこうした社会情勢を正しく認識した上で、自分たちが負担すべきところはしっかりと対応しつつも、管理会社の言いなりになることのないように、主体性をもって正しく対処することが求められる。
4)管理会社は管理委託費だけでなく、マンションで発生する修繕工事の請負業務も、大きな収入源となっているため、管理組合も「管理会社にもある程度もうけさせる」という考えを持っていることが大切である。
4)具体的には、管理委託費は適正な金額で契約しつつ、たとえば大規模修繕工事は他社との相見積もりにするが、小修繕工事は管理会社に発注するなど、バランス感覚を持った付き合い方をしていくべきだ。
5)1年や2年の任期で素人の区分所有者が交代で理事会を運営する現状のシステムでは、百戦錬磨の管理会社に対抗したり、将来ビジョンを持ちつつ継続的に適正な運営する仕組みを作るは至難の業だ。こうした適正な組合運営の支援については、外部の専門家を活用することも選択肢の一つである。
上記1)〜5)までの内容について特に異論はありません。
最近の傾向として、管理員や清掃員の人手不足を背景にコストが上昇しているのは事実で、以前のような時給単価では採用できないのが実情でしょう。
そのため、「一度決まった管理委託費は変わらない」という、これまでの「常識」が通用しなくなっているのです。
管理委託費以外にも、マンション保険料や消費税といった経費も近年確実に上昇しているため、管理組合が何ら対策を取らないと、一般会計(管理費会計)の収支も将来赤字に陥る可能性が高いことを肝に銘じる必要があるでしょう。
そのため、管理組合として打つべき「一丁目一番地」の対策とは、管理委託費や修繕費といった主要経費について適正な水準がいかほどか、また現状の負担について見直し余地がないかを正しく認識することです。
現在コンサルティングしている都内にある築24年目のマンション(36戸)では、昨年管理費と修繕積立金の両方が増額改定されたことがきっかけで理事長さんから相談を受けました。
その後、当社で「管理コスト適正化診断プログラム」を実施したところ、以下のことが判明しました。
■管理員の業務費については、昨今の時給単価の上昇で削減余地はないものの、その他の設備保守点検費の多くや、事務管理費などはかなり割高な水準である。
■ そのため、現在の管理仕様のままでも現状比で2割以上のコスト削減余地がある。(年間180万円程度の経済効果)
■ 管理員の勤務時間や設備保守点検の頻度がやや過剰に設定されているため、現在の管理仕様にも見直し余地があり、これらを反映すれば現状比で3割以上の削減余地がある。(年間270万円程度の経済効果)
こうした見直しは、私たちのような専門家を活用しなくては知り得ない知見です。
管理会社と比べると、管理組合は圧倒的に「情報弱者」であることを認識すべきだと思います。
<参考記事>