マンション管理士|村上智史の「士魂商才」 

無関心な居住者が多いマンション管理組合に潜む様々な「リスク」を解消し、豊かなマンションライフを実現するための「見直し術」をマンション管理士:村上智史(株式会社マンション管理見直し本舗 代表)がご紹介します。

区分所有法の改正で、今後マンションの建替えは増えるのか?

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ダイヤモンド不動産研究所のサイトページに、

区分所有法の改正でマンション建て替え決議が緩和! 都心や駅近の建て替え加速で、資産価値の高い物件に生まれ変わる未来も!?

と題した記事が掲載されていました。

 

diamond-fudosan.jp

<目 次>

1.本記事の要約

本記事の要約は、以下の通りです。

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1)建替えの決議要件の緩和

・決議ハードルの低下: これまで一律「5分の4以上」の賛成が必要だった建替え決議が、耐震性や火災への安全性に不足等があると「公的な認定」を受けた場合に限り決議要件が「4分の3以上」に緩和されます。

・今回の法改正に伴って、「所在不明区分所有者」は、上記建替え決議の際の分母から除外されるため、これも決議要件の緩和につながります。

 

2)管理の円滑化と適正化

(1)共用部分変更に関する決議要件の緩和

・共用部の変更については、これまで「全区分所有者の4分の3以上」の賛成が必要でしたが、「総会出席者の4分の3以上」(※ ただし、過半数以上の総会出席が要件)に緩和されます。

 

・さらに、共用部に瑕疵が発生している場合や、バリアフリー化を目的とする修繕工事の場合については、さらに決議要件が緩和され、「総会出席者の3分の2以上」の賛成で決議できます。

 

(2)「管理不全」を予防するための制度の新設

共用部について管理不全の状況が発生しているマンションに対しては、裁判所が外部の専門家として管理人を選任して、管理体制を整える制度が新設されます。

 

・また、専有部内における「ゴミ屋敷化」や騒音の発生など、これまで管理組合が実質的に介入が難しかった領域についても、裁判所への申立てを経て管理人が選任されることによって改善を図ることができるようになります。

 

3) マンションの「二極化」の加速

建替えが進む物件

容積率に余裕があり、建て替え後の余剰住戸を売却して費用を捻出できる都心・駅近の好立地物件は、法改正により資産価値がさらに高まります。

建替えが困難な物件

建替え資金を自前で用意できない、あるいは需要の低いエリアの物件は放置されるリスクがあり、価値の格差が広がります。

 

4)「建替え以外の選択肢」の多様化

・建替え以外の選択肢が広がります。

ホテルやサービスアパートメントなどへ用途転換(コンバージョン)を含む「一棟リノベーション」を行うケースも新たに加えられ、建替えと同様の決議要件に緩和されます。

 

5)区分所有者やマンション購入検討者への示唆

・今後は購入検討者が「将来建て替えが可能か」をより重視するようになります。

・理事会の権限強化や海外居住者への対応など、放置されがちな築古マンションの維持管理を立て直すための法的基盤が整います。

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本記事では、今年の4月から施行される法改正に伴って、今後マンションの建替えや用途転換(コンバージョン)が進みやすくなる可能性が述べられていました。

 

今回の改正によって、法制度上の「ハードル」は一定程度下がるのは確かです。

 

ただ、実務の現場にいる立場から申し上げると、

それだけで建て替えるマンションが今後増加するとは考えにくいと思います。

 

2.依然として高い、建替え実現の「ハードル」

今回の改正で、耐震性の不足等の一定の要件を満たすマンションについては、

建替え等の決議要件が「4分の3以上」に緩和されます。

 

この数字だけを見ると大きな前進に見えます。

 

ただ、冷静に考えると、たとえ建替えの決議が可決・承認されたとしても、

建替えのための「必要な資金」の確保

・反対者がいる場合の「住戸売渡し請求」や賃借人を含む「明渡し請求」

といった「重い課題」を解決しなくてはなりません。

 

高経年のマンションでは、

  • 高齢者世帯(独居を含む)

  • 相続後未登記の住戸

  • 所在不明の区分所有者

  • 投資目的のオーナー

  • 賃借人

など、多様な事情を抱える居住者が混在しているのが一般的です。

 

つまり、上記の決議要件は「法律上クリアすべき最低ライン」に過ぎず、

「ほぼ全員合意に近い状態」を作らなければ事業は前進しないのが実情です。

3.最大の壁は「資金問題」

法改正は合意形成の制度を整備するものですが、

建替えの最大の壁は、何と言っても資金の調達です。

 

典型的な事例では、

  • 戸あたり2千万円」程度の建替え工事費

  • 工事期間中の仮住まい費用

  • 引越し費用

  • 住宅ローンが残っている場合の資金調達

などが発生します。

 

特に築40年以上のマンションでは、

区分所有者の高齢化が進んでいるケースが普通です。

 

年金生活世帯に数千万円の追加負担を求めることは、

法改正の有無にかかわらず容易なことではありません。

 

都心駅近でかつ消化容積率にまだ余裕がある立地条件であれば、

余剰床をデベロッパー等への売却によって資金負担を減らせる可能性はあります。

 

しかし、そのような条件を満たすマンションは決して多くありません。

 

特に、地方都市や郊外に立地するマンションになると、

建替え後の分譲収益で事業を成立させるのは極めて難しいのが実情です。

4.コンバージョンも「万能薬」にはならない

用途転換の決議要件が緩和されることも注目されています。

 

しかし、例えば住宅からホテルや賃貸住宅への転換を検討する場合でも、

  • 立地の競争力

  • 事業者の確保

  • 近隣住民との調整

  • 建築基準法・用途地域の制限

  • 金融機関からの融資取付け

など、多くの実務上の課題が横たわっています。

 

「総会決議が通りやすくなる」ことと「事業が成立する」ことは、

全く別問題と考えるべきです。

5.今回の法改正の目的は「管理不全化の予防対策」

それでは今回の改正に意味がないのかと言えば、決してそうではありません。

 

私は今回の法改正の意義について、建替えの促進よりも

マンションの「管理不全状態」を予防するためのインフラ整備

にあると見ています。

  • 管理不全マンション等を対象とする「管理人制度」の新設

  • 「所在不明者区分所有者」の決議要件からの除外

  • 「出席者多数決制」の導入など決議要件の緩和

これらは、建て替えだけでなく、

適正な管理を維持するための基盤整備を図るために必要な制度措置

と評価すべきでしょう。

6.資産価値は「建替えへの期待」では守れない

今回取り上げた記事では、建替えによって資産価値が向上する可能性にも触れられていました。

 

確かに、建替えに成功すれば資産価値は大きく上昇します。

 

しかし、

  • 建替えに対する期待だけで老朽化物件を購入する

  • 将来の再開発を当てにして相場価格の上昇を見込む

という考え方は極めてリスクが高いと言わざるを得ません。

 

むしろ重要なのは、

  • 現状の修繕積立金の水準と長期修繕計画との整合性

  • 管理組合の運営状況と管理会社のサポート力

  • 管理組合役員の主体性と合意形成を図る力

といった、日常管理の地道な積み重ねによって獲得できる「無形の財産」です。

 

建て替えは「最後の選択肢」であり、

資産防衛の王道は、適切な維持管理の継続にあると思います。

 

7.まとめ

今回の法改正が、「一歩前進」に値することは間違いありません。

 

しかしながら、

  • 決議要件のハードルは依然として高いこと

  • 建替えに必要な資金の問題を含めて「決議後の課題」も山積していること

という現実も冷静に直視する必要があります。

 

マンションの資産価値を守るための要諦は、やはり

「日常の適切な管理」と「理事会主導による合意形成」の地道な積み重ねです。

 

法改正に過度に期待するのではなく、冷静に受け止めて有効に活用する。

 

それが、管理組合にとって大切なスタンスではないでしょうか。

 

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