いまコンサルティングしている管理組合では、今年30年目を迎える老朽化したエレベーターの改修工事の発注先と金額について目下検討中です。
工事発注の予定先として、現設備のメーカー系の業者のほかに、独立系保守業者2社からも見積りを取り、比較検討しています。
メーカー系と独立系では見積金額や工事仕様などで対応にはかなりの違いがあることが分かってきました。
#1 価格は メーカー系 >独立系
国内の大手5社を中心に寡占状況にあるエレベーター業界。しかも一度A社と決まれば、他のメーカーのB社やC社がリニューアルすることはありません。
しかし、この20年の間に業界の事情も大きく変わりました。いわゆる独立系の保守専業業者が登場し、メーカー系保守業者に比べて3~5割安の価格で保守点検の受注を提案しつつ、メーカー系から顧客を奪い始めたからです。
その後独占禁止法も改正され、独立系業者にもメーカー純正の部品を供給することが義務化されたことで、さらにこの傾向に拍車をかけることになりました。
そうした保守専業業者が、既存設備のリニューアル工事を請け負うこともできるようになり、実績を伸ばしつつあるのです。
リニューアルでは、カゴやレールなど継続利用できる一部設備を除いて老朽化した制御盤や巻上機をそっくり取り替える(制御リニューアル工事)のですが、工事仕様が同じでも、メーカー系の方が3割くらい高いようです。
#2 法改正への対応姿勢の違い
エレベーター設備についても、建築基準法等の法令による規制があり、しばしば改正されます。
最近では、千葉北西部地震による閉込め事故(H17年)や東京港区でのシンドラー製設備での死亡事故を踏まえて平成21年に大きな改正があり、安全対策が強化されました。
大きな改正点は、以下の2点です。
◆ 戸開走行保護装置の設置義務
<扉が開いたまま走行してしまうことを防止する安全装置。ブレーキの二重化や戸開走行を検出した際にカゴを静止する安全回路を設置>
◆ 予備電源付きの地震時等管制運転装置の設置義務
この他に耐震構造強化対策として、ガイドレールや継ぎ目の強度アップや、シーブ(ロープを掛ける回転車)外れ止め、かごパネル・ドアの強度向上等に関する法令も改正となっています。
メーカー系業者の提案では、こうした最新の法改正への対応もすべからく含んだものとなっています。
しかし、既存の設備を更新する場合には、最新法へのキャッチアップが法的に求められているわけではありません。
その場合、保守点検時に「既存不適格」と判定されますが、それは違法状態とは異なります。
したがって、どこまで法的に対応するかは、所有者(管理組合)の考え方次第です。
独立系業者のプランでは、地震時や停電時の管制運転機能は必須であるものの、戸開走行保護装置や内部設備の耐震対策までの対応は所有者の考え方や予算に応じたオプションメニューになっています。
したがって、独立系の標準的なメニューとして、平成10年の法改正対応プランがあり、その中に地震や停電時の閉じ込め防止対策工事が含まれた仕様が用意されています。
もちろん、安全対策を強化すること自体、けっして悪いことではありません。しかしデメリットもあります。問題は、コストアップと工期の延長です。
最新の法改正への対応を行えば、当然工事対象部分も増えるので、2~3割ほどコストが上がります。さらに、工期も1台当たり5~7日くらい延びることになります。
エレベーターが2台以上ある大規模マンションなら、基本的に1台ずつの停止となるため日常生活にさほど支障はないでしょうが、1台しかないマンションでたとえ1週間停止するとしたらかなり大事です。それがさらに延長するとしたらどうでしょうか?
基本的に大手メーカーへのブランド信仰が根強くあるわが国では、マンション管理組合も同様の考え方が主流です。
さらに、専門的な分野の法改正について詳しい知識を持っているわけではありません。
その結果、大手メーカーからの提案をそのまま鵜呑みにしてしまう傾向は否めないのが実情です。
数十年に一度の高額の投資への重大な選択をするのですから、有益な情報を集めて慎重に判断することが大切です。
こうした点から、管理組合が賢明な消費者・ユーザーになるためにはマンション管理士をはじめとする専門家の活用が欠かせないと思います。
どうも有難うございました!
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