顧問先マンションでは、管理会社による月次会計報告において運営の実態を反映しない処理が行われていることが判明しました。
具体的には以下のような状況です。
■ 年度の初月に、毎月計上されるべき費用(水光熱費など)がゼロになっている。
■ 毎月定額の費用項目にもかかわらず、月別の費用計上の金額がまちまち。
■ 駐車場や自転車置場等の専用使用料が、実際の稼働状況と符合しない。
その原因は、管理会社が月次の会計処理を「現金主義」にもとづいて行っていることにあります。
たとえば、共用部の水光熱費等については組合名義の銀行口座からの自動振替えで精算していますが、会計報告の期限(翌月末まで)には引き落とされないため「ゼロ」で計上しています。<下記資料抜粋>
収入科目の「専用使用料」も、施設の使用を開始するタイミングでは口座振替処理が間に合わないため、遅れて入金されることがあります。
そのため、実際の入金を確認した段階で収入として計上すると、実態とはそぐわない収支状況になるわけです。
また、3ヶ月毎に精算する費用項目があった場合も、本来はそれが該当する3つの月に分割して計上すべきなのに、精算した月に一括で計上しているというケースも見られました。
これらの齟齬については、年度決算を締める段階で修正作業を行うため、通常総会での会計報告までには解消されます。
しかしながら、月次ベースでは上記の理由から実態と異なる金額が多数計上されることから、年間予算に対する実績の進捗を正しく把握することが困難になってしまうという問題が発生します。
そのため、このマンションの理事会ではこうした事態を憂慮し、管理会社の責任者宛てに以下のような改善を求める書面を送りました。
(1)今後は収入・支出とも「発生主義」にもとづいて毎月適切に計上すること。
(2)実際の入出金状況を把握するため、貸借対照表の資産科目(未収金・前払金)あるいは負債科目(未払金、前受金)にて計上すること
こうした組合側の要望に対し、その後管理会社の回答書が届きました。
その内容は以下の通りです。
■ 各支出項目については「発生主義」にもとづく処理を行うよう努める。
■ 収入科目のうち駐車場の使用料については、使用者から申し込みがあった時点で計上処理を行うと、実際の口座振替処理が開始するまでの間、当該使用料が「未収金」として計上する。
■ そのため、その使用者に送付する口座振替のお知らせ文書にも「未収分」と記載されるため、使用者からクレームとなりトラブルに発展する恐れがあるので現状のままの運用とさせてほしい。
何という詭弁でしょう!?
もしそういう懸念があるなら、使用者に誤解されないよう、管理会社があらかじめ丁寧に説明すれば済む話です。
もちろん、そんな抗弁には到底承服できないので、理事会は管理会社に検討し直すよう要請しました。
私が考えるに、「発生主義」にもとづく会計処理に対して管理会社が消極的なのは、単に「毎月の手間が増える」のを嫌っているからにすぎません。
その本音を言う代わりに、苦し紛れの言い訳を持ち出してくるとは驚きました。
今回ご紹介した事例以外にも、管理会社による会計処理に関するよくあるミスとしては、以下のようなものがあります。
■ すでに今期実施した修繕工事なのに、未精算という理由で未計上のまま放置する。
(→ 来期の予算に含めて計上するしかない)
■ マンション保険料(5年分)を一括前払いした際に、当該年度の費用として全額計上してしまう。
(→ 来期以降の4年分は「前払金」(資産)として計上するのが正解)
いろんなマンションでこうした事象に時々遭遇するにつけ、管理会社の多くは会計処理の原則や、複式簿記の基本的な処理すら理解していないように思えてならないのです。
<参考記事>