マンション管理士|村上智史の「士魂商才」 

無関心な居住者が多いマンション管理組合に潜む様々な「リスク」を解消し、豊かなマンションライフを実現するための「見直し術」をマンション管理士:村上智史(株式会社マンション管理見直し本舗 代表)がご紹介します。

マンション管理会社の不正行為がなくならないのは、原因の分析が上っ面だから

 

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2月12日のニュース配信サイト「Net IB News」で、「従業員が管理組合財産を着服~東京都のマンション管理会社に監督処分」と題した記事が掲載されていました。

 

www.data-max.co.jp

本記事の要約は以下の通りです。

■ 国交省の関東地方整備局は2月6日、東急不動産グループのマンション管理会社:コミュニティワン(株)に対し、監督処分を行った。同社は2015年と2018年にも同様の理由で監督処分を受けており、今回で3回目の処分となる。

 

■  同社が管理受託している複数の管理組合で、同社の従業員と再委託先の従業員が、管理組合財産(修繕積立金など)を不正に着服していたことが判明した。

 

■  また、マンション管理適正化法施行規則において「区分所有者などから徴収した修繕積立金等を収納口座に預入した後、管理事務に要した費用を控除した残額を翌月末日までに保管口座に移し換える」と定められているが、同社はこの移し換える作業を行っていなかった。

 

■ 同社は取材に対し、「(今回の不正行為は)管理組合の決算書を確認した際、実際の予算より多く計上されていたため社内調査を行ったところ、同社従業員と再委託先の従業員が、備品購入時に日用品などの私物を合わせて購入していたことが判明した」と説明した。

 

不正に加担した従業員は11名、着服金額はおよそ370万円にものぼる。着服分については組合に全額弁済され、対象の社員は社内規定にもとづく処分が下されている。

 

不正の背景について同社は、「これまで他社からのリプレイスやM&Aなどにより管理物件を増やしてきたが、その際、元の管理会社の方法を踏襲して管理していた。結果として管理組合ごとに異なる管理方法が混在し、それぞれの管理体制の把握ができていなかったことが今回の事態を招いた」と説明している

 

■ 今後については、「これまでバラバラだった管理方法の統一化を図り、支店ごとに行われていた管理業務も本社で一括化する。監査法人に委託して会計処理マニュアルを作成し、それに沿って適正な会計処理を行っていく」としている。

 

なお、本処分に関する国交省の発表は下記サイトを参照ください。

https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000767933.pdf

 

管理会社の社員による組合財産の着服事件については、本ブログでも頻繁に取り上げ改善のための提言もしているので、もはやそれを繰り返す意欲も残念ながら湧いてきません。

 

ただ、本記事で気になったのは、記者からの取材に対する会社側のコメントです。

 

重要な点を以下の再度要約します。

***************************

<原因の分析>

他社からのリプレイスなどで受託した物件について、前の管理会社のやり方を踏襲した結果、社内で異なる管理方法が混在し、それぞれの管理体制の把握ができなかったことが今回の事態を招いた。

<改善のための施策>

管理方法の統一化を図り、支店ごとに行われている管理業務も本社で一括化する。管理業務については、監査法人を新たに設置したうえで会計処理マニュアルを作成し、それに沿って適正な会計処理を行っていく。

***************************

要するに、

個別の物件によって異なる管理体制について把握できていなかったことが、着服事件の原因と考えているわけです。

 

そのため、予防策として「管理方法の統一」や「会計処理マニュアルの変更」を行うとしています。

 

率直に言って、私には違和感しかありません・・・。

こんな勘違いも甚だしい分析にもとづく改善策で問題が解決するわけがありません。

 

そもそも本記事にも登場する「マンション管理適正化法」では、管理会社が月次会計報告書を作成のうえ、翌月末までに組合の理事長に送付することが義務付けられています。

 

重要なのは、その報告書をもとに、社内の誰がどのように不正やミスがないかをチェックしているのか?(ハッキリ言えば、していないのではないか?)です。

 

先日も、顧問先マンションの理事会で、月次報告書に不可解な現象が生じているので、フロント担当者に以下のような質問しましたが、彼は即答できませんでした。

 

・月極め駐車場の契約台数が変動していないにもかかわらず、その使用料収入が毎月激しく変動するのはなぜか?

・毎月自動引き落としになっているはずの防犯カメラの保守料金が前月計上されていないのはなぜか?

 

 なぜ私の質問に答えられないかというと、管理会社の社内で、会計処理業務は(フロント担当とは)異なる部署の社員が行っており、会計報告について相互でチェックしていないからです。

 

加えて言うと、

フロント担当者の上席であるマネジャーによる管理・監督もほとんど行われている痕跡がありません。

 

そのため日常的に発生するフロント担当の業務ミスや遅延・失念等も、クライアントである組合からクレームを受けない限り、一向に気づかないままという有様です。

 

つまり、根本的な原因は、社内の分業体制とそれに起因する管理監督ならびにコミュニケーションの不足にあると考えています。

 

もう一つ重要な原因は、基本的な会計知識の欠如です。

具体的に言えば、複式簿記のしくみを理解していないということです。

 

管理組合の会計は、原則として「発生主義」にもとづいて処理します。

これを言い換えると、「現金主義ではない」ということです。

 

この「発生主義」と「現金主義」の違い、分かりますか?

 

たとえば、毎月区分所有者が納める管理費は、組合にとっては収入です。

月次報告や決算書でも管理費は予算に対して毎月100%計上されているはずです。

 

ただ、それは預金口座にも100%あるということでは必ずしもありません。

発生主義の場合、請求した(された)金額ベースで収入(支出)を計上するからです。

 

しかし、実際には、管理費の滞納や口座への入金失念も時々発生します。

では、そのような場合は報告書のどこで確認するのか?

 

その答えは損益計算書ではなく、「貸借対照表」にあります。

 

貸借対照表の左側、「資産の部」には預金残高などが記載されています。

預金残高の下に「未収金」の項目があります。

 

管理費等に滞納が生じた場合は、この未収金に計上されます。

言い換えると、未収金がなゼロなら管理費等の滞納もないわけです。

 

こうした基本的な知識すらない人が処理すると、

月次収支報告の中に発生主義と現金主義が混在することになり、上記のような私の質問が出てくることになります。

 

発生主義を理解していない最もティピカルな例は、

マンション保険料」の計上方法に現れます。

 

保険契約は長期一括割引の優遇を受けるため、5年分の保険料を前払いするのが一般的です。

 

その際、今年の保険料と来年以降4年分の保険料をそれぞれ異なる科目で以下の通り仕訳しなくてはなりません。

・今年の保険料   ⇒ そのまま今期の費用(保険料)として計上

・来年以降の保険料 ⇒ 未経過分の保険料は「前払金」として資産の部に計上

 

管理組合の決算書を数多くチェックしてきましたが、未経過分を含めて当期の費用で全額計上しているマンションを時々見かけます。

 

しかし、管理組合側にも会計に明るい人が滅多にいないので、見事にスルーです。

 

こうした処理をすると、毎年の決算収支が実態以上に変動しているように見えるので、本当の分析ができにくくなります。

 

この程度のことは、「日商簿記3級」レベルの知識さえあれば十分対処できるのですが、残念ながら現実にはその水準に満たない人たちが数多く管理組合の会計処理に携わっていることが問題なのです。

 

こうした体たらくな業務実態を知ってか知らずか、「前の管理会社の方法を踏襲したから」とか「経理処理マニュアルを改正する」とか筋違いな分析と対応をしている限り、またこのような残念な事件が再発することでしょう。

 

<参考記事>

 yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

  

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